Julie Watai

サンレコ編集長、國崎晋さんから…

みしゅましゅ*Pのマスヤマです。mishmash*Julie Wataiの音源が、一番最初に世に出たのは、「サウンド&レコーディング・マガジン」(リットーミュージック)という雑誌においてでした。まだ、今からほんの半年前のことですが2012年5月号で表紙に大々的に銘打たれた「マジカル・アレンジメント・ツァー」という企画の「音素材」として、『グラドルを撃たないで』の「ヴォーカルパートのみ」を提供したのです。

簡単にいえば、まだ、誰も完成形を聞いたことが無い楽曲の「ヴォーカルパートのみ」を当代一流のプロ・アレンジャーさんに渡し、「チャートのトップ10に入るような楽曲にしてください」という依頼をしてしまうという、まぁ、軽いムチャぶりともいえる趣旨の企画でしたw。

その結果は、美島さんもJulieちゃんも、もちろん私も、今さらながらに「プロってスゲー!」と思わされるような曲ばかりが上がって来て、美島さんは「あー、オレのアレンジは、もう出さなくていいか…」とまで(まぁ、半分冗談でしょうが)言い始める始末…。

その企画の仕掛け人こそが、サンレコ編集長であり、軽妙なトークから音楽プロデュースまでをこなす才人、國崎晋(くにさき・すすむ)さんです。以下本文。

 

美島豊明は「楽器」である!

 國崎晋/サウンド&レコーディング・マガジン編集長

 mishmash*Julie Wataiの「mish」は美島豊明(みしま・とよあき)さんのこと、そして「mash」はマスヤマコムこと本プロジェクトの仕掛け人である桝山寛(ますやま・ひろし)さんのことを指すと思っていたのだが、当の桝山さんによると「美島氏」が転じて「mishmash」になったという経緯もあるとのこと。それほどまでに桝山さんに惚れ込まれた「美島氏」とは何者かと言えば、シンセサイザー・プログラマーであり、コーネリアスこと小山田圭吾さんの音楽制作におけるキー・パーソンである。

シンセサイザー・プログラマーは、シンセサイザーやコンピューターのオペレートを一手に引き受け、音を作り、音を奏でる職種。だからウチのような音楽制作の専門誌でコーネリアスの取材をするときは、小山田さんと美島さんは必ずセットでいらしていただき、どんな音を出したかったのか?という質問には小山田さんが答え、実際にどうやって作ったのか?という質問には美島さんが答えるという流れになる。

例えば「お化けっぽいイメージが欲しいからハープシコードを使いたかった」と小山田さんが答えれば、美島さんが「そのハープシコードはMODARTT Pianoteq 4 Proを使って鳴らしました」と受ける……という具合に。

こういうことを書くと、“えーっ!小山田圭吾って音を作ってないんだぁー”と早合点する人がいるかもしれないが、それは間違い。「美島さんも含めて楽器である」と考えてもらえると分かりやすいかもしれない。

 『POINT』の「nowhere」で聴けるトロンボーン・ソロも、『sensuous』の「Sleep Warm」で聴けるフルートとストリングスも、『CM4』で三波春夫さんが歌う「赤とんぼ」の伴奏ピアノも、鳴らしたい音のイメージは小山田さんの中にしっかりあり、それを「美島氏」という使い慣れた、鳴りのいい楽器で奏でたものなのだ。

しかし!良い楽器であればあるほど、弾かれてこそなんぼ。毎日演奏されることで良い状態が保たれるし音色の輝きも増す。で、実際はどうだか分からないが、『sensuous』以降6年もコーネリアスのアルバムが出ていないことを考えると、「美島氏」という名器はこのところあまり弾かれていないようだ。

“だったらお前が弾いてみろ!”と大のコーネリアス・ファンである桝山さんに天命が下ったのか、それとも楽器であるはずの「美島氏」が突如として自意識を持ち自ら音を奏で始めたのか、真偽のほどはともかくmishmash*の音楽はこの世に誕生した。

 確かにそこで響いている音は、隅々に至るまでコーネリアス的な手触りがある。当たり前だ、同じ楽器で奏でられているのだから。一方、全く違う音楽性であるのも事実。当たり前だ、弾いている人が違うのだから。

 かように、ただのギターであればことさら騒ぎ立てなくていいような事柄を、「美島氏」という成り立ちがややこしい楽器だからあれこれ言いたくなってしまうわけだが、ここはそんなややこしいことを考えず、名器の調子はいまだに上々であることを確認し、本来の持ち主が次に弾くときはどんな音を出すのかに思いをはせるのが正しいのではないだろうか。

(國崎晋/サウンド&レコーディング・マガジン編集長)