Julie Watai

アニメ脚本家の佐藤大さんから…

みしゅましゅ*Pのマスヤマです。先週金曜から、オーストラリアに来ていて、今はまだタウンズヴィルという東海岸の街に居ます。今日は 『サムライチャンプルー』、『交響詩篇エウレカセブン』などのアニメの脚本・構成で知られる佐藤大(さとう・だい)さんから、みしゅましゅ*デビュー・アルバム(特別仕様版)について、原稿いただきました。

本文中にもありますが、私とは20年くらい前からの知り合いで、私は、最初に彼に会った時からコトバに関するセンスと明るいキャラに魅了されてきました。もう10年近く前ですが、私が教えていた大学にゲスト講師として来てもらったとき「今度は、サーファーを主人公にしたアニメを企画してるんですよ!」と嬉しそうに教えてくれたことを覚えています。それが『エウレカ』だったわけですが。

大ちゃん、ありがとう!以下本文。

 

–mishmashさま。僕もマスヤマプロデュース経験者の一人です–
佐藤大(脚本家) 

アルバム発売おめでとうございます。まず、マスヤマさんがまさかアーティストになって、そのファーストアルバムのコメントを今こうして書いていること自体に驚いています。

 というのも、僕がライター時代に残した初で唯一の単行本『ジェネレーション N』の巻末コメントをお願いした三人が、ポケットモンスターの制作者である『田尻智』さん、今やAKB48のプロデューサーとして有名な秋元康さん、そして桝山寛さんだったからです。このコメントを依頼された時、当時、巻末コメントの依頼を桝山さんに快諾して頂いた時のことを改めて思い出しました。

そして、聴かせてもらったアルバム『mishmash*Julie Watai』は、僕も個人的に大好きな打ち込み中心の楽曲で構成されていました。まさに好みのサウンド。そしてウィスパーな女の子の歌声との相性もピッタリで、自宅での作業中にも聴かせてもらっています。もしかすると桝山さんと初めてお会いした頃、僕がインディーズのテクノレーベル『フロッグマンレコード』を運営していた経歴も、このアルバムにコメントをすることになった要因かもとも思いました。そんなわけで実感として日本の音楽業界が厳しいと知っている個人としても、今、こういったカタチの完全にインディーズでアルバムをリリースするという挑戦的な活動は、本当にすごいと思います。

その上、サウンドにコーネリアスのサウンド・プログラマ、美島豊明さん。ヴォーカルに元グラビアアイドルで、写真家のJulie Wataiさん。さらに今回のアルバムに特別収録されている漫画には大暮維人さん。PVがクワクボリョウタさん、常盤響さんなどなど、各々個性的な面々がこのアルバムのプロジェクトに参加されています。ただ個人的には、この個性的なメンバーが集まっていること自体にはあまり驚きはありません。なぜならマスヤマさんは昔から、常に誰かと誰かを結び、プロデュースし続けているということを知っているからです。

 僕がライターをしていた頃も桝山さんは、書籍『電視遊戯時代—テレビゲームの現在』だったり、展覧会『BIT GENERATION 2000』だったり、でもプロデューサー的な存在でした(そういえば、一緒にロッテルダム映画祭にいったことも。あの時はキュレーターでしたね)。そして、僕も制作に関わっていたPSゲーム『エンエンエンジェル』や64DDゲーム『巨人のドシン1』のプロデュースも桝山さんです。

だから、今回、何よりも驚いたのは、やはりその本人が、アーティストとして参加しているユニットをプロデュースしていることかもしれません。

マスヤマさんが昔から音楽好きだったことは、自宅のオーディオ機器などへのこだわり、音の知識などからでも明らかでしたが、まさか自分で自分をプロデュースして、ミュージシャンとしてデビューすることになるとは。さらにマスヤマコムさんとして作詞を担当。

ということで、作詞家でもある自分としても、やはり注目させてもらいました。作詞家としてのマスヤマコムさんは技巧派。Julie Wataiさんの『キャラクター』に合わせた細かな言葉の選択がされていました。そんななかにも「記憶の奴隷」や「影法師」といった言葉の選択にマスヤマコムさんの奥底に沈む想いが垣間見えたり。ちなみに一番好きな曲は『3分シェイクスピア』です。Julieさんのウィスパーな声とマスヤマコムさんの淡々とした中にも世の中への憂いを感じるような皮肉な言葉が、美島さんの温度の低い心地よい音と重なり、すてきなアンサンブルを奏でています。

 そんなデビューアルバムとは思えない貫禄の仕上がり。ファーストアルバムとは思えない上、インディーズでしかできないような挑戦的なプロダクト。改めて僕がいうまでもないですが、やはりセルフプロデュースも完璧です。

 そんなこんなで、かつてマスヤマさんにプロデュースされたことのある経験者としてもプロデューサー桝山寛がプロデュースするマスヤマコムの参加する『mishmash*Julie Watai』のファーストアルバム、楽しませてもらいました。

 佐藤大

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佐藤大(さとう・だい)さん プロフィール

19歳の頃、主に放送構成・作詞の分野でキャリアをスタートさせる。
その後、ゲーム業界、音楽業界での活動を経て、現在はアニメーションの脚本執筆を中心に、さまざまなメディアでの企画、脚本などを手がけている。
2007年「ストーリーライダーズ株式会社」を代表取締役として設立。

脚本代表作:TVアニメ『永久家族』、『カウボーイビバップ』、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』、『ウルフズレイン』、『絢爛舞踏祭』、『サムライチャンプルー』、『交響詩篇エウレカセブン』