コトの経緯 mishmash*関係者インタビュー

第6回:弁慶(76477) (後編)

弁慶氏、実はかつて音楽機材メーカーに就職していたことが判明。
しかし自作曲を発表するようになるまでには様々な紆余曲折が……。
『起電力ロマンス』誕生の秘密に迫る!!(取材・文:菅原英吾)

[「起電力ロマンス」の英語版MVはこちら。Julieちゃんが早口にチャレンジ。]

弁慶:その後は叔父のダクト工事の仕事を手伝ったり……

A5:ビートルズ・エイジの……。

弁慶:はい、ビートルズ・エイジの……。専門学校時代の同級生の紹介で、レコーディングスタジオで働いていた時期もあります。

A5:レコーディング・スタジオでは、どのようなお仕事をされていたんですか?

弁慶:機材のメンテナンスですね。ミキシングコンソールのモジュールを修理したり、アナログのマルチトラックデッキのレベル調整をしたり……。当時TMネットワークがレコーディングのために何ヶ月も先まで予約を入れているようなスタジオで。宇都宮隆さんが歌っている後姿を見たりしてましたね……。

弁慶氏がスタジオに勤めていた頃レコーディングされていたのは『RHYTM RED』とのこと。1990年、TMN名義でリリースされている。

弁慶:その後、実家で”家を建て替えよう”という話が盛り上がったのをきっかけに、父親の仕事を手伝うようになって、現在に至ります。

A5:どんなお仕事なんですか?

弁慶:ラッキングというんですが、ビルなどの建築物の配管を保護するための、金属製のジャケットを被せる仕事です。

A5:音楽活動はやめてしまっていたんですか?

弁慶:やってはいたんですけど、ぼちぼちという感じで。

A5:現在のような、活発な音楽活動を再開したのは、いつ頃ですか?

弁慶:30代後半になってからですね。装置メガネってご存知ですか?

A5:はい、テクノポップユニットの。

NHKの『熱唱オンエアバトル』に出場して人気を集め、2006年にメジャーデビューしたテクノポップユニット。フリッパーズ・ギターの『恋とマシンガン』をカヴァーしたりもしている。

弁慶:彼らのライブを見に行ったら、高校時代によくつるんでいた同級生にそっくりで。それを見てるうちに、気持ちが高校時代にタイムスリップしてしまって……。

A5:音楽をやりたい! という熱い気持ちが甦った?

弁慶:それからライブで演奏することを目的とした曲を作り始めました。

A5:ただ曲をつくるだけじゃなくて、ライブをやるということが重要だったんですね。

弁慶:はい。ライブをするにあたっては、自分がこれまでやってきたことを、なるべく全て突っ込みたいな、と考えました。

A5:それで電子工作ネタを歌詞に織り込むようになったわけですか?

弁慶:そうですね。でも電子工作ネタだけでは、受け入れられないかな、と。それで、甘酸っぱい恋の歌と電子工作ネタを同時に展開すれば、よくわからないかもしれないけど、面白いんじゃないかと。

A5:ふむふむ。

弁慶:これはもう76477のコンセプトからお話しなければ、と思うんですが……。

A5:はい。

弁慶:電子回路も人の動きも、同じなんだよ、という……。

A5:ええっと、どういうことでしょう?

弁慶:電子回路というのは、エンジニアが、”こういう風に動かしたいから”という意図を持って設計しますよね。

A5:はい。

弁慶:人間関係とか社会……社会と言っても、そんなに大きくなくてもいいんですけど、例えばキミとボクの間の関係ですとか、そういう関係というのも、”こういう風にしたい”という気持ちで動いていますよね。それが回路として動いているのか、人間として動いているのかの違いであって、動かしたいという気持ちは一緒なんじゃないかと思うんです。

A5:なるほど。

弁慶:電子回路だからといって難しく考えなくても、人間関係に置き換えて説明していくと、こういうことだろう? ということが表現できたらいいな、という気持ちで、76477の作詞をしているんです。

A5:76477、というのは……。

弁慶:ライブを行うために作ったユニットの名義です。ユニットといっても一人ですけど。色々活動内容によって名義を分けることで、何かすごいことをやっている感じがするかな、と思いまして。

A5:由来は……?

弁慶:インベーダー・ゲームの音を作り出すのに使われているのがテキサス・インストゥルメントという会社のSN76477というICなんです。

A5:インベーダーって勿論ゲームとして面白かったですけど、音も格好良かったですよね。あの音を作り出していたのが、そのSN76477だったんですね。

弁慶:音を作ったり、電子工作をしたり、ゲームで遊んできたりした……そういう自分のルーツを全部、象徴できるものって何だろうと考えたら、76477という、ICだったんです。究極は、オレ自身がシンセサイザーだろ? という意味もあってですね……。

A5:オレ自身がシンセサイザー!?

弁慶:まあ実際にはシンセにも限界はあるわけですけど、それはそれとして、どんな音でも出してやるぜ、という意気込みが、あのICにはあったわけですね。

A5:76477の曲作りは、どのようなプロセスで行っているんですか?

弁慶:まずタイトルを連呼するところからはじまります。

A5:最初に歌いたいテーマや歌詞のネタがあるんですね。

弁慶:そうですね。車を運転したりしながらタイトルを口ずさんでいるうちに、だんだん節が固まってきて、それが大体サビになります。そこにキーボードでコードをあてる。そうすると曲の全体のコード進行も見えてきて、後はそのコードに合わせて、メロディと歌詞を作っていくという感じです。

A5:歌詞はワープロで書くんですか?

弁慶:PCでメモ帳を開いて。サビの歌詞を中心にして、ちょっと馬鹿げた想像を拡げていって……。

A5:音はどうやって作っていくんですか。

弁慶:XG音源の入ったYAMAHAの小さなキーボードでコード進行を録音して、そこに各パートを付け足していく、というのが、ひとつの方法です。もうひとつは、ACIDというDAWソフトを使って、ループを切貼りしたり、加工したりしているうちに、”おっ、いいな”というフレーズが出来てきて、それを元に作っていく曲もあります。

A5:なるほど。ライブはどんな機材でやってるんですか?

弁慶:ライブでは、ほとんどオケで出しちゃっています。

A5:では、ステージ上では何をやっているんですか?

弁慶:板切れ一枚持っていって、板をこう抱えたらギターでしょ、こうやって置いたらキーボードに見えるでしょ、と。そこはもう見ている人の想像力にも手伝ってもらって。

A5:板切れ一枚ですか!

弁慶:確かに機材を並べるのも格好いいんですけどね。”ここに機材があると思いねえ!”っていうほうが味があるかな、と。そのほうがステージ上で頑張ってる感が出るというか、パフォーマンスとして面白いかな、と思って……。

A5:完全にエアなんですね。

弁慶:自分で楽器を弾いていると途中でテンパってしまったりして格好悪くなる可能性が高いので、なるべく演奏は最小限に、効果的にやることを考えています。曲の肝心な部分でヴォコーダーを使ってコーラス、ハーモニーをつけるくらいが一番良いだろうと思って。

A5:そのライブをマスヤマさんが目撃して衝撃を受けたんですね。

弁慶:一昨年のMake:Tokyo Meetingで行ったライブを見てくれていたんです。

A5:電子工作好きが集まるイベントですね。そのときに会場で声を掛けられたんですか?

弁慶:いえ、共通の知り合いの米本実先生という方がいまして、後日、マスヤマさんから米本先生に”あの板切れ持った男は何者?”とメールが来たそうです。

手作り電子楽器に注目が集まるきっかけとなった良書。

A5:最初はmishmash*Julie Wataiの初ライブ(2012年4月14日)での対バン依頼だったんですよね。

弁慶:そうですね。

A5:面識のない人からの対バン依頼、びっくりしませんでしたか?

弁慶:ライブを見て気に入ってくれたということなので、ありがとうございます、よろこんで、という感じで引き受けました。

A5:その後、マスヤマさんは『起電力ロマンス』をmishmash*Julie Wataiでカヴァーしたい、と言い始めました。

弁慶:『起電力ロマンス』は元々私の作った曲のなかでも評判が良くて、ライブでは必ず演奏する曲だったんですよ。

A5:『起電力ロマンス』が評判良かったのは何故だと思いますか?

弁慶:うーん、そうだなあ……、やっぱり、どの曲よりも、恋心的な要素が多く入っていたからでしょうね。しかも、その恋心というものを表現するために、レモン電池とか太陽電池といったものを小道具として使うという、そこら辺のアホさ加減がいいんじゃないかと。

A5:『起電力ロマンス』というタイトルは、どういうきっかけで思いついたんですか?

弁慶:フレミングの法則ってあるじゃないですか。

A5:はい。中学の理科の時間に習ったと思います。

弁慶:フレミングの法則について考えていたときに、ふと、電力が生まれるってどういうことだろうな、と思って……。起電力って何? 電気を起こす力って何? 電気を起こす力と恋の力を混ぜたらどうなる? というところから『起電力ロマンス』というタイトルを思いついたんです。

A5:歌詞のなかに”この国の電力事情は……”という部分がありますね。今、この歌詞を聴くと、どうしても福島の原子力発電所のことを歌ってるのかな、と思ってしまうのですが……。

弁慶:そうですか。でも曲を作ったのは、3.11より前なんです。

A5:それ以前から、日本の電力事情については、何か思うところがあったんですか?

弁慶:以前から、電力事情が危ないよ、という話は、ありましたよね。例えば夏になれば皆が当たり前のようにエアコンをつけるじゃないですか。ラッキングの仕事をしていると、しょっちゅうエアコンの近くにいますからね。ぬるい空気いっぱい吐き出しやがって、と思っていて……。

A5:ああ……都市部の気温が異常に上がるヒートアイランド現象とか、夏になるとニュースで盛んに取り上げられますね。

弁慶:でも一番言いたいことは、”電気、自分で作ってみたら?”ということで。それを言いたいがために、電力事情云々といったことを持ち出してきたというのはあります。

A5:そっちでしたか。でも太陽電池にしてもレモン電池にしても、得られる電力って、ごく僅かじゃないですか。生活に必要な電力を生み出すには、すごい労力がかかりますよね。

弁慶:そうですね。それがわかっている人には、歌詞のアホらしさが、より伝わるのではないかと思います。

A5:美島さんがアレンジしたmishmash*Julie Watai版『起電力ロマンス』は、いかがでしたか?

弁慶:すごくスタイリッシュになっていますよね。一つ一つの音の使い方が、すごくパーンっと格好良く決まっていて。何て言うのかな……。私は自分で曲を作っていても、そこまで気を配ってないものですから。

A5:弁慶さんの曲も、細かな音の工夫が随所に散りばめられているなあ、と思いますが……。

弁慶:私の場合、一曲完成させるのに何ヶ月もかけてしまうこともあるわけで、長い時間作っていると、何かしら変化をつけたり、お遊びを入れたりしたくなってくるんですよ。『起電力ロマンス』には、シカゴの『サタデー・イン・ザ・パーク』という名曲の要素を潜ませてあったりします。

シカゴはロックにブラス楽器を取り入れたバンドとして先駆的な存在。1969年にデビュー。『サタデー・イン・ザ・パーク』は1972年のアルバム『Chicago 5』に収録されている。

A5:そうなんですか! 美島さんはそのことに気付いているのかな……。美島さんは『起電力ロマンス』はとてもよくできた曲で、特にシンセソロ部分ははほとんどアレンジする必要がなかったと言っていました。

弁慶:あのシンセソロは、手弾きで、そのときの思い付きだけで、さっと録音したんです。

A5:そうやって自然に出てきたフレーズのほうが、考えて作られたものより、かえってよくできていたりすることもあるんでしょうね。ところでコーネリアスや美島さんの音楽は聴いたことはあったんですか?

弁慶:昔、仕事に向かう車のなかでラジオを聴いていたら『スター・フルーツ・サーフ・ライダー』が流れてきて、もうこれは聴くしかないと思って、すぐにCDを買いに行ったということがありました。当時は毎日聴いていました。

A5:ジュリちゃんは、電子工作繋がりで、人脈的にはかなり近いところにいた感じですよね?

弁慶:そうですね。『はーどうぇあ・がーるず』なんて、ちょっとドキドキしながら見ていましたけどね。

A5:弁慶さん版『起電力ロマンス』は、一番と二番では歌いまわしを変えたりしていて、まったく同じように歌う箇所がないですよね。そこを再現するのに結構苦労したみたいですよ。

弁慶:歌い方は曲によって”この人風”とか”あの人風”とか、変えているんですけど、『起電力ロマンス』の場合、『だいすき』を歌う岡村靖幸さんに成りきって歌いました。

A5:ああ! そうだったんですね。言われてみれば!

実はマスヤマ氏も岡村ちゃんファン。『だいすき』は1989年発売のサードアルバム『靖幸』に収録されている。

弁慶:それにしても弁慶さんの曲、特に『起電力ロマンス』は、まるでジュリちゃんのために作ったんじゃないかと思うほど、ぴったりのイメージの曲ですよね。

弁慶:ジュリちゃんは、部品の気持ちがわかる女性だと思うんです。

A5:部品の気持ち!?

弁慶:機械好きな女性というのも、たまにいますけど、意外と基本的な仕組みをわかってなかったりするんですよね。

A5:ジュリちゃんは、電子回路を愛する精神が溢れてますよね。……『起電力ロマンス』以前には、誰かに曲を提供したりということはなかったんですか?

弁慶:本格的にリリースされるのは『起電力ロマンス』が初めてですが、以前に一度、曲を提供したことはあります。

A5:どんな曲だったんですか?

弁慶:『そこ触っちゃダメ』というタイトルで、歌詞の内容は、”そこの部分は今、作ってる途中だから、まだ触らないで”というものなんですが……。

A5:やはり電子工作ネタで。

弁慶:はい。萌え系の女性が『そこ触っちゃダメ』って言ったら、みんなちょっとエロい想像をして面白いだろうなと思って。

A5:その曲は今現在、どこかで聴けるんですか?

弁慶:今は聴けないですね。わかりました、近いうちにSoundCloudにアップしましょう。

A5:それにしても今って、秋葉原系文化とアイドル文化が重なって空前のブームになっているじゃないですか。

弁慶:そうですね。30年前の秋葉原には、おっさんしかいなかった。その中を掻き分けて部品を買いに行ってましたね。

A5:多分今、ライブのためのレパートリーを必要としているアイドルが、地下から地上まで、秋葉原にはいっぱいいると思うんです。そこの需要に弁慶さんの曲って、ぴったりだと思うんですけど……。

弁慶:曲を作っていて、これは自分が歌うより、誰か他の人に歌ってもらったほうが曲が生きてくるのかな、と思うことはあります。

A5:まあ秋葉系でも”部品の気持ちがわかる”レベルまで達している人は、なかなかいないかもしれませんが……。

弁慶:自分の作っている詞を読んでみると、これはちょっと生身の人に歌ってもらうよりもボカロのほうが合うんじゃないかと感じたりしますね。

A5:ここ数年、電子回路の自作が静かなブームになってきていたり、アナログシンセサイザーの人気が復活してきていたりと、これまでになく時代の流れが自分向きになってきてる感じはしませんか?

弁慶:そうですね。以前は、とにかく最新の機材を集めて、最新の音楽をやるぜ、と言っていたような音楽仲間が、最近はArduinoっていうマイコンボードで音源を作り始めたりとかしていて……。ああ、やっと今の時代が、わかってきてくれたんだな、と思ったりしていて。

A5:今が旬じゃないですか!? どんどん新曲を発表してください!

弁慶:そうですね。何しろ今、詞がガンガンできていますから。去年、”今年は詞を百本書く”と宣言して、今、103本ストックがあるんです。それが全部曲になるかどうかはわからないですが、今の作曲ペースだと、多分30年はネタがもつだろうと思ってます。

A5:30年ですか! 長いなあ。その頃にはもう70代じゃないですか。

弁慶:70代で、今みたいに恋の歌が歌えるかどうか、それはわからないですけど。今は、自分が作った曲を歌うということが、楽しくて仕方が無いんですよ。

A5:考えてみると30年前の自分と今の自分、大して変わってないような気もします……。ということは30年後もあまり変わってないのかなぁ……。これからも弁慶さんの音楽が聴けるのを楽しみにしています!

弁慶(76477)弁慶=作詞/作曲家としての名義
76477=自作曲をライブ演奏する際の名義
他、活動内容により複数の名義を使い分けている。ラッキングを本業としつつ、作詞作曲、ライブ活動、電子回路・電子楽器の自作をライフワークとしている。実はカエル型電子楽器ケロミンを開発する有限会社トゥロッシュにも勤務。SoundCloud
https://soundcloud.com/benkei76477YouTube
http://www.youtube.com/user/benkei76477/videosライブ出演予定
2013年7月 板橋 Dream’s Cafe