コトの経緯 mishmash*関係者インタビュー

第5回:COR!S(前編)

モノゴトというのは、すべて小さな偶然の積み重ね、ということはわかっていても、人生には「こんな偶然もあるのか!」「ただの偶然とは思えない!」と感嘆せずにはいられないような出来事が、度々起きるもの。mishmash*というプロジェクトは何故か、そんなミラクルの起きる度合いが、普通よりちょっと多いんじゃないかという気がしますが……。

今回の「コトの経緯」で描く出来事は、そんなmishmash*プロジェクトに起きた数々のミラクルのなかでも、最大級のミラクルかもしれません。美島氏にして「このプロジェクトには何かある!」と言わしめたその人は、大阪在住の会社員でありながら、mishmash*Julie Watai『グラドルを撃たないで』のアレンジコンテストで最優秀賞を獲得したCOR!Sさん。
一見フツーのゆるふわ系女子と見せかけておいて、今年に入り「POCKY CREATORS」音楽部門でも最優秀賞を受賞。ただのラッキーでは済まされない実力を示した期待の若手サウンドクリエイターなのです。
果たしてこのミラクルは、単なる強運ゆえの偶然の結果なのか、音楽的な裏打ちを伴った必然の結果なのか?

今回の前編では彼女が「マジカル・アレンジメント・ツアー! 2012」に応募するまでの経緯に迫りたいと思います。(取材・文:菅原英吾)

COR!S:気づいたときにはエレクトーンを弾いてました。物心ついた頃すでにヤマハのエレクトーン教室に通うことが日常だったという感じです。

菅原英吾(以下A5):そうか、そこである程度音楽的素養が身についたんですね。エレクトーンをやってた人って、一人で全パートを演奏するからか、自然とアレンジというものを理解してる人が多いですよね。その頃はどんな曲を演奏してたんですか?

COR!S:ジブリやディズニーのアニメのサントラとか、映画音楽やミュージカル音楽が多かったですね。

A5:クラシックだけじゃなくて、ジャズやポップスなど、多ジャンルの音楽に触れられるのもエレクトーンのいいところですよね。エレクトーンを弾くことは楽しかったですか?

COR!S:自分で空想……というか妄想……を繰り広げて、好きなように、自由に弾くことは楽しかったんですけど……。

A5:自由に……ということは、すでに作曲めいたことをしていたんですね。

COR!S:でも楽譜を見て練習したり、教室に通ったりすることはあまり好きじゃなかったんです。

A5:子供の頃って楽譜が読めなくても、見よう見真似で、ある程度弾けるようになっちゃいますからね。

COR!S:今でも譜面を読むのは苦手です。ある日、小学校低学年の頃かな……母親の自転車の後ろに乗せてもらって教室に通ってたんですけど、はしってる自転車から飛び降りたことがあります。教室に行くのがイヤすぎて。

A5: うわ! 決死のダイブ! そこまでイヤだったんですか。反抗期だったんですかね。大人しい優等生タイプと思いきや、その頃は活発な子だったんですね。

COR!S:小学生のときはダンスレッスンにも通ったりしてました。

A5:何ダンスですか?

COR!S:ストリートダンスです。小さい頃から音に合わせて体動かしたりするのが好きだったのと、あと不良っぽくてやんちゃな感じに憧れて(笑)

A5:不良かあ。でもグレてたわけではないですよね?

COR!S:家が割と厳しくて。グレたくてもグレれなかったです……。

A5:じゃあワルへの憧れをダンスで満たしたわけですね。

COR!S:それでヒップホップなんかの洋楽を聴くようになりました。

A5:洋楽でヒップホップといえば、たとえば誰?

COR!S:当時だとエミネムとか。ネリーとかアシャンティ。

エミネムは黒人が主流の米ヒップホップ界で成功した数少ない白人ラッパーの先駆的存在。アルバムのトータルセールスは約9000万枚とされており、2000年代の10年間に世界で最もアルバムが売れたアーティストである。2002年に自ら主演した自伝映画『8 Mile』もヒットさせている。

A5:エミネム! それはワルっぽい! でも周囲に洋楽を聴いている子は少なかったんじゃないですか? ハロプロ全盛の頃じゃないですか。

COR!S:あ、でもアイドルにはすごく憧れというか興味があって……中学生の頃、モーニング娘。のオーディションに応募したことがあります。

A5:テレビ番組の「ASAYAN」でやってたオーディションですね。ゴマキが加入する頃までは熱心にテレビで観てたなぁ。オーディション会場にすごい行列ができたりしてた……。

COR!S:私の頃はもうインターネットで応募する形式でした。

A5:それで結構イイところまでいったとか?

COR!S:いえ、全然。一次も通らず。

A5:ありゃ。でも、その頃すでに人前に出て音楽で活躍したい、という気持ちがあったんですね。

COR!S:うーん。自分自身がアイドルになりたいかは別にして、音楽業界で活躍したいという気持ちはその頃からあったと思います。でも当時はそんなことを口にすることすら恥ずかしくて……。

A5:派手に目立つようなことはしなかったんですね。部活動とかはしてなかったんですか?

COR!S:中学では吹奏楽部でした。

A5:高校では?

COR!S:高校は、英語に力を入れている学校だったんです。だから英語の勉強ばかりしていました。

A5:音楽活動は?

COR!S:高校のときは、音楽自体、ほとんど聴いてなかったんです。音楽を聴く暇もなく、朝も、放課後も夜まで補講を受けて。

A5:うーむ、そもそもその高校を選んだのは何故?

COR!S:英語を勉強したかったからです。

A5:どうして?

COR!S:んー。洋楽が好きだったから、単純に英語に憧れてたのかな。で、会話したり英語の歌詞の意味が分かるようになりたいなって。

A5:それだけ音楽が好きだったのに、音楽を聴く暇もないほど勉強してたという状況はストレスではなかったんですか?

COR!S:ストレス、というか葛藤がありました。進学にあたっても、音楽系の学校に行きたいという気持ちもあったんですけど……。

A5:もっと潰しの利く学部に、みたいな?

COR!S:将来的なことも考えて……。

A5:堅実な道を歩むことにしたわけですね。音大を受験するなら、そのための勉強もしなくてはならないですしね。

COR!S:そうですね。音楽理論をちゃんと学んでたわけではないし。

A5:でもまあ、とりあえず大学生になれば、それまでよりは、やりたいことを自由にできるようになったんじゃないですか?

COR!S:ダンスと軽音楽のサークルを掛持ちしてました。

A5:バンドやってたんですね。どんなバンドですか?

COR!S:そこは邦楽で、東京事変のコピーとか。

A5:椎名林檎、好きなんですか?

COR!S:いえ、元はPE’Zのヒイズミマサユ機さんが好きで。

ヒイズミマサユ機は2004年から2005年まで”H是都M”名義で東京事変にキーボーディストとして在籍していた。中学2年でジュニアエレクトーンフェスティバル’91全日本大会銅賞入賞という経歴の持ち主。国立音楽大学音楽学部作曲科卒。1999年にジャズインストバンドPE’Zを結成。現在最も精力的に活動している日本人キーボーディストの一人。

A5:なるほど。キーボーディストとしての興味から。その頃はオリジナル曲は演奏してなかったんですか?

COR!S:バンドではやってませんでした。楽譜が読めなければ、書くことも出来ないので……。ひとりで適当に鍵盤たたいて、気づいたら曲ができてるみたいな感じでした。

A5:ほう。DTMを始めたのはいつからだったんですか?

COR!S:大学三回生です。

A5:きっかけは?

COR!S:いつの間にか鍵盤上で出来てた曲とはいえ、ちゃんとオーディオにして楽曲として残したいなと思って。楽器屋さんの音楽教室にDTMコースとDJコースがあって、最初どっちにするか少し悩んだんですけど、DJをするにしても、自分の曲でDJをしたくて。まずはDTMで曲作りをしようと。

A5:DJもやってみたかったんですね。やっぱりダンスをやってたからクラブミュージックには興味があったんですよね?

COR!S:でも私クラブってほとんど行ったことないんですよ。

A5:わ、やっぱり優等生。まあ、クラブって、ダンスというより、お酒とか雰囲気を楽しみに行く場所ですからね。

COR!S:エレクトロを聴いたのもケミカル・ブラザーズの「Star Guitar」が初めてなんです。

ケミカル・ブラザーズは英国マンチェスター出身の二人組。1995年に『さらばダスト惑星』でデビュー。ロックとダンスミュージックの融合を推し進めた”デジロック”の大御所である。「Star Guitar」は2002年にリリースされたシングル曲でアルバム『Come With Us』に収録されている。電車の車窓からの風景をループさせたミュージックビデオも印象的だった。

A5:ああ、名曲ですよね。「Star Guitar」の頃はエレクトロっていうジャンル名は、あまり使われていなかったですけどね。テクノとかデジロックとか言って。

COR!S:今まで自分が聴いてきたような音楽とは違いすぎて……。基本ループだけなのに、なんでこんなにカッコイイんだろうって。EQとかフィルターとか、その頃全く未知だったので衝撃でした。これどうやって演奏するの?とすら思ってました(笑)

A5:確かにクラブミュージックの曲の展開の仕方って、いわゆる歌モノの音楽のフォーマットとは全然違いますよね。それにしてもケミカル・ブラザーズって結構ドカドカバキバキって感じの粗野な曲が多くて、あんまり女の子が好きなお洒落クラブミュージックって感じではないですよね。

COR!S:そうですね。それから色々クラブミュージックを聴くようになって、エレクトロを好きになったのはcapsuleの『FLASH BACK』を聴いてからですね。

今や当代一のヒットメーカーである中田ヤスタカ氏が、自身のメインの活動の場としているのがcapsule。2001年デビュー。『FLASH BACK』は2007年発売の9枚目のアルバム。

A5: ああ、capsuleはお洒落ですよね。キラキラしてて。シンセの音はビキビキだけど……。

COR!S:そのバランスがいいんです。女性ボーカルですし。

A5:なるほど、その”バランス”が重要なわけですね。それが中田ヤスタカさんの音との出会いですか? Perfumeや、きゃりーぱみゅぱみゅ ではなく。

COR!S:はい。

A5:DTMソフトはCubaseを使っているそうですけど、それは中田ヤスタカさんの影響で?

COR!S:それもあるんですけど、DTM教室で使っていたのがたまたまCubaseだったからですね。中田さんが使ってます!ってポスター見て即買いに行きました。

A5:バンドにダンスにDTMに、と充実した大学生活ですねー。バイトはしてたんですか?

COR!S:カフェでバイトしてました。

A5:おー。そこはイメージ通りですね。お洒落なカフェで?

COR!S:バケット系のサンドイッチの美味しいお店で。

A5:バケット系ってどんなんだろ? まあきっと食パンではないんでしょうね。

COR!S:でもバイト一色というほどでもなく。

A5:勉強はしてなかった?

COR!S:メディア系の学科だったので、いっつも映像を撮ってましたね。脚本を書いて、カメラを回して、演出して、編集まで……何かと忙しく過ごしてました。

A5:ミュージック・ビデオとか?

COR!S:いえ、コマーシャル的なものが多かったですね。コンテストに応募したりしてました。

A5:コマーシャルということは、何かの商品の?

COR!S:はい

A5:例えば……。

COR!S:ギャッツビーとか。

A5:ギャッツビー! なんか面白そう。で、そのコンテストで入賞したりとかは……。

COR!S:ありません。全然。

A5:でも学生の頃から、そういうふうに商品の良さをアピールしたり、クライアントを意識した作品制作をしてたというのは、イイことですよね。その経験が活かされて「Pocky Creators」音楽部門での最優秀賞に繋がったんじゃないですか?

COR!S:そうかもしれません。映像制作のときもほとんどオリジナル曲をBGMにしてましたし。

A5:で、大学を卒業して、東京に出て音楽で一旗揚げてやる! みたいな考えはなかったんですか?

COR!S:それはなかったですね。というか”まだ違うかな”って。

A5:こんな時代ですもんね。やっぱり堅実に地元で就職したわけですね。

COR!S:大阪でも、インターネットで作品の発表はできるし、SNSで人脈も築けるし……。

A5:でもちゃんと会社員をしながら、音楽活動も続けるって大変じゃないですか?

COR!S:そうですね。

A5:まず、朝は何時起きですか?

COR!S:4時半。

A5:えー、なんでそんなに早いんですか?

COR!S:曲を作りたくって。夜は時間が無いから、できるだけ朝作りたいんです。

A5:絶対無理……。もちろん、その後、会社に行くんですよね。

COR!S:家を出るのは7時半。会社に着くのが8時半で、9時始業です。

A5:30分前に会社に着くわけですね。偉いなあ。遅刻なんてしないんでしょうね。

COR!S:終業が5時半で、帰ってくると7時とか7時半とか。8時からまた曲作りをスタートしたいので、それまでにご飯と寝る準備を済ませて……。

A5:寝るのは?

COR!S:10時くらいには寝たいんですけど、作業をしているとついつい時間がオーバーしてしまって……。0時を越えてしまったら、次の日起きる時間を少し遅くします。

A5:土日は?

COR!S:ひたすら時間がある限りは、ずっと音楽制作です。

A5:遊びに行ったりしないんですか?

COR!S:もう全然行けてないです。最近。

A5:すごいストイックですね。なんでそこまでできるんでしょう? やっぱり音楽をただの趣味では終わらせたくはないという強い気持ちがあるんですか?

COR!S:やっぱり作曲、編曲の仕事をやっていきたいというのはあるので。

A5:じゃあ、そのためのチャンスは虎視眈々と狙ってる感じ? コンテストがあったらすかさず応募したりとか。

COR!S:そうですね……。でも「マジカル・アレンジメント・ツアー! 2012」の募集をしてた「サウンド&レコーディング・マガジン」2012年5月号を買ったのは、表紙に今井了介さんの名前があったからで、最初は読者コンテストが開催されていることも、気付いてなかったんです。

「マジカル・アレンジメント・ツアー! 2012」はmishmash*Julie Wataiの『グラドルを撃たないで』のボーカル・トラックだけを売れっ子アレンジャーに渡して”チャートのトップ10に入るような曲にしてください!”とお願いしてみる企画。今井了介氏は日本のR&Bシーンをリードするプロデューサー。この企画では、エレクトロ風のアレンジを聴かせている。この企画に使われたのと同じボーカルトラックがCD-ROMに収録され、読者によるアレンジ・コンテストも開催された。ちゃんと表紙に”読者コンテストも開催!”と表示されています。

A5:あらま。

COR!S:読者コンテストの開催に気づいたのは締切の10日前くらいでした。

A5:締切が5月15日ですから、5月5日頃ですね。ゴールデンウィークも終わろうかというときですね。でも10日前でよかったですよね。これが3日前ならあきらめてたでしょうし。どんなアレンジにするか、すぐにイメージできたんですか?

COR!S:【課題曲について】のページに載っていたマスヤマさんのコメントを読んで、イメージが湧きました。”Shoot”という単語には”撃つ”と”撮影する”という二つの意味がある、という部分です。グラドルって華やかなだけじゃなくて、大変なんだろうなあって。

A5:それをどう音に置き換えるんですか?

COR!S:カメラのシャッター音が突き刺さってくるような。それでいてちょっと闇がある感じの音にしようと……。

A5:ダブステップって今が旬だし、タイミング的にも良かったですよね。ダブステップは結構聴いてたんですか?

COR!S:ちょっと前にスクリレックスを聴いたのが初めてです。

 ★ 2012年の第54回グラミー賞で最優秀ダンス/エレクトロニカ・アルバム賞、最優秀ダンス・レコーディング賞、最優秀リミックス・レコーディング賞の3部門を受賞しているスクリレックス。昨年末に来日。A5は東京公演へ、COR!Sは大阪公演へ行きました。日本ではまだまだですがダブステップは欧米ではすっかり定着した感がある。

A5:そうなんだ……。すぐに自分の音作りに反映できるなんて吸収早いですね。でもダブステップも、あんまり女子受けする音楽ではないですよね。ブワワッ! ズビズビズビッ!って感じで、音楽というより、SF映画の効果音集を聴いてるみたいな気分になる。

COR!S:でもスクレリックスは、ずっとブワブワいってるだけじゃなくて、既に十分曲として成り立ってるだろって中に、過激な音が入ってきたりとか……それがさらに魅力です。

A5:二面性があるってことですね。スクリレックスは煌びやかなシンセ音でトランスっぽいキャッチーなメロディが入ってたりして聴きやすいですもんね。そのバランスですね。優等生のフリしてるけど、実は結構ワルいんだぜ、みたいな。

COR!S:だからシャッターをバシバシ切られながらも、華麗に、それでいて懸命に頑張るアイドルをうまく表現できるかな、と思って……。

A5:なるほど。曲のテーマとも合ってるわけですね。で、できあがったアレンジは満足できるものでしたか? 入賞する自信はありましたか?

[こちらがCOR!Sさんのアレンジした『グラドルを撃たないで』。YouTubeにはその後、他の読者によるアレンジが自主的に複数アップされている。審査員気分で聴き比べてみるのも一興かと。]

COR!S:技術的な自信はなかったですけど、自分なりのテーマ表現の仕方は出来たかなと思いました。

A5:そうですか……。結果発表のある「サウンド&レコーディング・マガジン」8月号は7月15日発売ですから約二か月間、ドキドキですよね。あ、でも発売前に通知は来るわけか。

COR!S:そうですね。

A5:果たして、その結果は……。「ASAYAN」っぽい気分になってきた!(というわけで、次回急展開!)

COR!S(コリス)大阪在住の会社員。「マジカル・アレンジメント・ツアー! 2012」「POCKY CREATORS」音楽部門で最優秀賞受賞。COR!S’s stream on SoundCloud
https://soundcloud.com/cor-sブログ COR!S take a little walk
http://ameblo.jp/uchang-63/