コトの経緯 mishmash*関係者インタビュー

第3回:松本拓也

今回お話を伺う松本拓也氏は、様々な企業をクライアントにソーシャルメディアプロモーションを企画、制作、運用する(株)EAの代表取締役。ここ数年はミュージックビデオのキャスティング・企画制作等、音楽関連の仕事に注力しており、mishmash*Julie Wataiでは、宣伝と音楽出版も担当。
カラオケJOYSOUNDへの入曲、USEN、各種テレビ番組でのPV放送やラジオでの楽曲オンエアなど、インディーズらしからぬ宣伝を展開している。だが、松本氏が現在のビジネススタイルに辿り着くまでには、”ヒット商品を生み出す”ことを巡っての、数々の艱難辛苦、紆余曲折があったのだ……。(取材・文:菅原英吾)

松本:初めてマスヤマさんに会ったのは私が電通に勤めていた頃でした。

A5:いつ頃のことですか?

松本:1994年です。

A5:もう20年近く前ということになりますね。電通では、どんなお仕事をされていたんですか? やはりプロモーションとかマーケティングとか?

松本:はい。マーケティング局にいました。電通は、クライアントからの相談には何でも応じます、という会社なんです。どちらかというとコンサルタントのような仕事ですね。

A5:どんなクライアントを担当されていたんですか?

松本:当時3DO TRYというゲーム機を発売していた三洋電機を担当していました。

A5:3DO懐かしいですね。3DOのテレビコマーシャルは今でも印象に残っています。”マルチメディア”とか”インタラクティブ”とか、なんだか凄そうだけどよくわからないなー、みたいな。そういえば3DOのハードは松下電器だけでなく、三洋電機からも発売されていたんですね。

松本:ゲーム機を盛り上げるには、まず人気ゲームソフトが必要ということで、どうやったら面白いゲーム、ヒットするゲームが作り出せるんだろう? と必死に考える日々でした。そんなときに本屋で『電視遊戯時代』という本を見つけたんです。”これだ! ここに秘密がすべて書かれている!”と思いました。すぐに出版社に連絡して、著者の方に会いに行きました。

電視遊戯時代―テレビゲームの現在 編者テレビゲーム・ミュージアム・プロジェクトとして1994年に出版された大型本。実質的な企画と編集監督がマスヤマコム(桝山寛)。後にポケモンのプロデューサーとして、世界に知られるように石原恒和氏が企画、マスヤマも編集に携わった書籍『電視遊戯大全』(1988)の続編ともいえる。

A5:そこでマスヤマさんに出会ったわけですね。

松本:そうです。

A5:どんなことを話したんですか?

松本:突然モデムとフロッピーを渡されて、ここにアクセスするといいよと。マスヤマさんが主宰していたFirst Classsの「EA」というグループに招待されました。

A5:この出会いが、その後の人生に大きな影響を及ぼすことになるわけですね。

松本:ええ。電通は二年後に退職したんです。新しい事業を始めたくて。

A5:広告代理店、しかも電通なんて、就職するだけでも凄いのに、辞めるなんてもったいない、と思っちゃいますけど……。

松本:私の父はレアメタルの商社を一代で成功させた起業家なんです。そんな父の姿を見て育ったので、大学を卒業するときには、三年後には起業する、と自分の心のなかで決めてたんです。そのうえで、今の日本で一番良い社会経験を積める会社はここだろうと思い、電通に就職したんですね。

A5:そうだったんですか。

松本:私は長男だったので、当時は、父の事業を継がなくては、ということもあって、父の会社の中で、メディア事業部という形態で起業しました。

A5:具体的には、どんな業務を?

松本:インターネットで何かやろう、と。

A5:お、そこはマスヤマさんの影響ですね。

松本:でもそれ以外にビジネスプランはありませんでした。

A5:まさかのノープラン!

松本:(苦笑)最初の三か月は売上ゼロでした。

A5:インターネットが一般的に広まり始めたキッカケはWindows 95だと言われていますから、目を付けるタイミングは早いほうですよね。

松本:翌年には新聞社サイトのバナー広告の販売をはじめました。

A5:やはり電通出身ということで、広告業からはじめたわけですね。

松本:同時期に、大阪新聞のサイト上で得点を争える「大阪縁日」を企画制作して、マルチメディアグランプリ96ネットワーク部門エンターテイメント賞を受賞しました。

A5:ちゃんとゲームを研究した経験も生かされていますね。当時は既にバブル経済が崩壊して後で、とにかく日本全体が不況ムードでしたね。元気があるのはITベンチャーかゲーム業界くらいという感じでした。

松本:1999年には成果報酬型広告のサービスを行うアクションクリックという会社を創業し、2004年にはこのビジネスモデルで米国特許を取得しました。

A5:こうやって駆け足でハナシを聞くだけではわからないですが、実際にはこの時期のITベンチャーの興衰は凄まじいものがありましたね。アメリカではITバブルは2001年頃に弾けた言われてますし、日本でITベンチャーの社長がやたらと持て囃されて、株価どんどん上がっていたのも2000年代半ば頃まででしたし。ちなみにこの時期マスヤマさんは『信用ゲーム』『マネースマート』『M.I.Q.』など、お金や株取引、ライフプランなどをテーマにした作品を多く手掛けていました。

松本:アクションクリックはその後、電通の子会社となって、私は退職しました。そして2006年に妻と現在の株式会社EAを創業しました。

A5:ブログやSNSを利用した商品のプロモーションを手がけるようになるわけですね。

松本氏が、パワーブロガーの力を借りて商品をプロモーションする手法についてまとめた書籍

A5:今ではタレントがブログで商品の広告をするということも、当たり前のようなことになっていますけど、当時はタレントがブログを開設しているというだけで新鮮味がありましたね。

松本:でも最初の頃はなかなか大変でしたね。タレント事務所にブログのハナシを持って行っても、あまり歓迎されないんですよ。やはりテレビCMとか、ドラマや映画の出演とか、そういう大きな仕事を持ってきてくれないか、という感じで。”それならそういう仕事を持ってきたるわい”ということで、映画のキャスティングやプロデュース業に乗り出していくわけです……。

A5:川島海苛さん主演の『携帯彼氏』などですね。

松本:その後、桐谷美玲さん主演の『音楽人』をプロデュースしたりました。

A5:ブレイク前に川島さんや桐谷さんの魅力を見抜いていたわけですね。

松本:ところが、映画の仕事に専念しすぎてしまって、次の仕事がなかった、という状況になってしまったことがあるんです。

A5:少人数の会社だとなかなか営業まで手が回らないですからね。

松本:でも2009年に、AZUさんの『いますぐに…』のミュージックビデオに俳優の佐藤祐基さんをキャスティングしてから、音楽の仕事だけは、一つの仕事が次の仕事を呼び込むというようなカタチで、うまく繋がって行くようになったんです。それでミュージックビデオのキャスティングから、企画・制作、アーティストや楽曲のプロモーション、音楽出版と、音楽関係の仕事に比重を移していくようになりました。

A5:音楽の仕事に辿り着くまで、ずいぶん長くかかりましたね。マスヤマさんも、それこそ色んなプロデューサー業を経てmishmash*というプロジェクトを始めたわけですが、時を同じくして音楽という共通点に辿り着いていたというのは、面白いですね。

松本:その時その時に好きだと思えること、”これだ!”と思ったことをやってきただけなんですが、ずいぶん回り道をしてしまったのかもしれないですね。でも今では、音楽を中心に、タレントキャスティングが本業なのですが、この仕事こそ天職だったんだな、と思うほどです。

A5:天職とまで!

松本:ドMなんで。

A5:ああ、耐え忍ばなくてはならないことも多いんでしょうねえ……って、松本さんドMなんですか! 次々とカワイイ新人アイドルに会える、夢のように楽しい仕事なんだと思ってましたけど……。

松本: もちろん、実際、楽しい部分もあります

A5:一人のタレントに思い入れしてしまうと、次のタレントにもまた同じだけ思い入れすることって難しくないですか。

松本: DD(誰でも大好き)なので大丈夫です

A5:……。

松本:mishmash*Julie Wataiには、特にJulie Wataiさんかな?ちょっと入れ込みすぎかな、と思うくらい入れ込んでますけど。

A5:2012年の、まだ暖かくなる前頃に、mishmash*Julie Wataiを、どのように売って行けばいいか、という議題でミーティングしましたね。

松本:そうですね。とりあえずYouTube、amazon mp3、iTunes、ototoyでのシングル曲の配信や各媒体へのリリース送付タイミングを決めました。

A5:YouTubeでは「恋のタマシイ」のショートバージョンを予告編的に配信しておいて、その後フルバージョンを配信、amazon mp3のチャートで1位になりましたね。

松本:1位になったのは大きかったですね。媒体さんもうまくニュースで拾ってくださいました。

A5:1位というと、やはり皆”おおっ”と思いますものね。話題作りということで言うと、ソーシャルメディアもうまく活用していますよね?

松本:facebookページの運用も私が担当していました。

A5:mishmash*Julie Wataiのfacebookページには、現在10,000人を超えるファンがいますが、その95パーセントが海外の方です。そこは戦略的に狙っていったんですよね?

松本:そうですね。JulieちゃんのCAコスの写真が効果的でした。

A5:「グラドルを撃たないで(濱田祐子バージョン)」ではトップグラドルの逢沢りなさんをキャスティングしましたね。このあたりは松本さんの面目躍如といった感じですね!

松本:いえいえ。

[ビデオ中に使用されている逢沢りなのポラロイド写真はJulie Wataiが撮影している。グラドルがグラドルについて歌った曲のビデオにグラドルが出演しグラドルが撮影するというアイデアが良い!]A5:先日『mishmash*Julie Watai』のフィジカル版のスタッフで打ち上げをした後、皆でカラオケに行ったんです。「恋のタマシイ」がちゃんとJOYSONDに入曲されていることを確かめに。もちろん、ちゃんと入曲されていて歌うことができました。歌ったらほんの少し自分たちに還元されるぞ! みたいな。

松本:ありがとうございます(笑)

A5:カラオケって膨大な曲が入っていますが、それでも曲が発売されればなんでもかんでも入曲されるというわけではないんですよね。

松本: そうですね。インディーズの曲が入曲されることはあまりないのですが、JOYSOUNDさんにがんばって交渉しました。2013年の1月末までカラオケの曲間でCMも流れているので、ぜひチェックしてみてください。

A5:mishmash*Julie Wataiの楽曲はUSENでも流れていますし、ミュージックビデオはテレビでも放送されています。こういったところで楽曲を使用してもらえるのは宣伝担当がしっかり仕事をしてくれているからですよね。

松本:弊社でUSENやテレビまで扱うのはmishmash*Julie Wataiが初めてではあるんですけどね。メジャーアーティストの仕事で、レコード会社の宣伝担当の方がやっていることを見よう見まねで、やっています。

A5: mishmash*Julie Wataiでは、代表音楽出版社も担当されてますよね

松本:そうです。ですので、楽曲が売れたり、利用されたりすると、音楽出版社である弊社にも印税が支払われ、それを作詞のマスヤマコムさんや作曲の美島さんに分配することになります。弊社はこうした事務作業としての音楽出版ではなく、テレビ局などに音楽出版権の一部を譲渡することで、宣伝展開をしています。

A5:多くのインディーズのアーティストは、なかなかそこまで本格的に宣伝に取り組めないと思うんです。二の足を踏んでしまう理由は色々あると思うのですが、まず、そもそもプロモーション費用を捻出できないという大きな問題があります。

松本: mishmash*Julie Wataiのテレビ・ラジオ・USEN・カラオケなどの展開に関しては、宣伝費用が一切かかっていません。音楽出版社である弊社の取り分の権利を楽曲毎に各媒体に一部譲渡することで、各媒体社に一緒にMishmash*Julie Wataiを応援してもらう体制を作っています。その分、弊社の取り分は減るのですが、それ以上に楽曲が広まること、売れることを優先して、宣伝優先型の音楽出版に取り組んでいます。

山口哲一氏、殿木達郎氏、高野修平氏との共著による、ソーシャル時代の音楽ビジネス指南書。松本氏は「PV・MVの可能性」「ソーシャルメディアありきでレガシーメディアを考える」「成果報酬型プロモーションへ」といった項を担当している。

A5:なるほど。ソーシャルメディア時代になって、自分で自分をプロモーションをするということは、とても簡単になりましたね。でもそうすると、他人にプロモーションしてもらうこともないんじゃないか、とも思ってしまいますが。

松本:できるアーティストは、それでもいいと思うんですよ。すべて自分でできるという天才アーティストもなかにはいると思います。これなら絶対に売れるという鉄板のプロモーション手段があるわけではないんです。それぞれのアーティストの個性に見合ったプロモーション手法というものが、それぞれあると思います。

A5:まあ現実には誰からも見出されずに自己満足で終わってしまうということになってしまいがちですよね。放送局にも音楽業界にもコネクションを築けなくて、しまいには”アーティストは良い作品を作ってさえいればよく、プロモーションのことまで考える必要はない””売れてる音楽には碌なものが無い””そんなに売れたいの? みっともない”とか言い出しかねない。負のインディーズ指向ですよ! ネット時代になって余計に”テレビなんて俗悪なものには出演しなくていい!”とか”テレビ、新聞、雑誌なんて古い”とか。

松本:ソーシャルメディア時代になってもレガシーメディアは依然として重要ですね。TwitterのトレンドキーワードやYouTubeの人気動画も、実はテレビで紹介されたものが多かったりします。

A5:数多くのキャスティングの仕事をしていると、”この人は売れる”とか”これからブレイクするぞ!”とか、見抜けるようになるものですか?

松本: 匂うようにはなります

A5:ずばり、どんな人が売れますか?

松本:本人のポテンシャルはほとんど判断材料にはしません。判断材料は二つです。まず誰が推しているか?

A5:うーん。やはりレガシーメディアはコネが大事な世界なんですね……。もう一つは?

A5:数値ですね。

松本:ソーシャルメディアだと、ブログのアクセス数やTwitterのフォロワー数や本人動画のYouTubeの再生回数や一昔前だとmixiのファンコミュニティの会員数の数値、それ以外だと写真集やCDやDVDの販売数に注目しています。

A5:例えばtwitterだったら、どれくらいフォロワーがいれば、”これからどーんとブレイクするぞ!”と言えるのでしょうか。

松本:10万人以上、というのがひとつの基準ではありますね。

A5:10万人! それって既にブレイクしているのでは……。@mishmashJPのフォロワー数は1192人(2012年12月19日現在)ですから、まだ全然足りないですね。ケタが違う……。

松本:mishmash*Julie Wataiの場合は、Julieちゃんは作品集を全世界で120万部売り上げる写真家でもありますし、コーネリアスのアルバムは世界19か国でリリースされているという実績もあり、最初から海外を視野に入れて活動しているというところに可能性を感じています。

A5:全曲日本語バージョンと英語バージョン(カヴァー曲の「UN BUCO NELLA SABBIA」のみイタリア語)をレコーディングしていますものね。

松本:私の夢のひとつが日本人アーティストを世界でブレイクさせることなんです。

A5:でも、ここ数年の音楽業界は、日本でも欧米でも、とにかくCDが売れない、不況だ、と言われていますよね。そんな時代に音楽ビジネスに乗り出していくというのは、リスキーではないですか?

松本:私は、そんなに今が音楽にとって冬の時代だとは思っていないんです。というのは、YouTubeなどによって、ユーザーが音楽に接している時間というのは、CDが売れていた時代より、増えていると考えているからです。YouTubeでは再生回数が100万回越え、1000万回越えといったミュージックビデオが多くあります。

A5:2013年はいよいよmishmash*Julie Wataiの世界進出が始まりそうですね。松本さん、英語は大丈夫ですか?

松本:学生の頃はそこそこ喋れたんですけどね。また勘を取り戻しておかないといけないな、と思っています。

松本拓也(まつもとたくや)
1969年生まれ。ソーシャルメディアプロモーションを企画、制作、運用するプロデューサー。インフルエンサーを起用したミュージックビデオのキャスティングを得意とする。近著に『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略』がある。この本での議論の続きはFacebook上で公開され、一般参加が可能。facebook  ソーシャル時代に音楽を売る7つの戦略
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