コトの経緯 mishmash*関係者インタビュー

第2回:TARAWO (前編)

mishmash*Julie Wataiは、美島豊明、マスヤマコム、ジュリワタイの三人組……ということは既にご存知のことと思うが、10月13日デビューライブ、10月31日DOMMUNEでのライブ生配信、そして12月1日CD発売記念ライブを観て、ドラマーがいることと、その迫力ある演奏に驚かれた方も多いのではないだろうか。

彼こそはmishmash*Julie Watai第四のメンバーとも言えるTARAWO氏である。今後ドラムセットの搬入が可能な会場でのライブにはメンバーとして出演していくことになっているTARAWO氏に、mishmash*Julie Wataiに参加するコトになった経緯を伺った。
(取材・文:菅原英吾)

 

 

[10月31日DOMMUNEでのライブ時の様子。この日は美島氏と合わせて衣装を黒基調にした。]

TARAWO:美島さんから、mishmash*Julie Wataiのライブでドラムを叩いてほしいと連絡があったのは今年(2012)の4月下旬頃でした。

菅原英吾(以下A5):ということは4月14日にmishmash*Julie Wataiがシークレットライブを行った後ですね。この時のライブでステージ上にいたのは美島さんとJulieちゃんだけでした。

TARAWO:”テスト的なショウケースをやってみたんだけどライブ感が足りなかった”ということで……。

A5:私、このライブの反省会に出席したんですけど、”もっと生演奏のパートを増やしてバンドっぽくしたほうがライブ感が出るんじゃないか”というような話が、マスヤマさんからも、美島さんからも、出ていました。後日”この人どうでしょう?”と美島さんから提案があったのが、ドラマーだったので、あれっ? と思ったんです。私は、バンドっぽさを出すなら、まずはギターかな? と安直に考えていたので。でもマスヤマさんはTARAWOさんのYouTube映像を観て、すぐに”この人に頼もう”と思ったようです。

この演奏がマスヤマコムを決断させた!! いやはや凄いです〜。

TARAWO:私のほうも美島さんからお話をいただいて、即答でOKしましたね。

A5:えっ! それは音を聴く前にですか?

TARAWO:はい。それはもちろん美島さんからの依頼だったからですが。速攻でOKですね。

A5:美島さんのやってることだったら間違いないだろう、というわけですね。そんなに信頼関係があったのは、どうしてなんでしょうか。そもそも美島さんとは、どのようなご縁で……?

TARAWO:もうさかのぼること十数年前、20世紀の終わり頃ですが、私はメジャー・レーベルからCDをリリースしていた、とあるバンドのドラマーとして活動していたんです。ドラム、ベース、ギターのスリーピースバンドだったんですが、あるとき次のレコーディングにマニュピレーターを入れよう、ということになったんです。

A5:バンドサウンドにコンピューターの打ち込み系の音を取り入れようと思ったわけなんですね。でも演奏者としてはコンピューターを導入することに抵抗はなかったんですか? 特にドラマーにとっては職分を奪われる恐怖というか……。

TARAWO:いえ、むしろこの流れに乗り遅れてはいかんのではないか、と思っていました。海外ではマリリン・マンソンやプロディジーなんかがシーンを席巻していた頃で。

A5:デジロックという呼ばれ方をしていた人たちですね。

TARAWO:やはりバンドとコンピューターとの親和性を高めていこう、と。で、日本で誰かそういうことができる人をということで事務所の方が探してきてくれたのが美島さんでした。ちょうどブラーのコーネリアス・リミックスが話題になっていた頃でした。

A5:1999年11月にリリースされたシングル「No Distance Left To Run」に収録された「Tender (Cornelius remix)」ですね。当時イギリスでブラーは超絶人気バンドでした。

ブラーの「Tender (Cornelius remix)」は、その後、コーネリアスによるリミックス集『CM2』に収録されている。BECKから電気グルーヴまでアーティストの多彩さが凄い!

TARAWO:デジロックとはまたちょっと違う音ですが、これ作った人すごいね、ということになって、で、やりましょう、と。

A5:さらっと言ってますが、考えうる限り最高の人選じゃないですか!

TARAWO:それでプリプロを始めることになったんですが、私、美島さんと同じく、千葉に自宅がありまして……。

A5:千葉! なぜかmishmash*プロジェクトは千葉率高いんですよねーw

TARAWO:自宅の庭にドラムのブースがありまして、そこにDTM機材を買い揃えはじめていたので、じゃあそこなら生のドラムの音も録れるし、打ち込みもできるからいいじゃん、ということになって、二週間ほど、毎日通っていただいたんです。

[庭のドラムブース「タラスタ」の内部。常にフルマイキングで思い立ったらすぐRECできる状態になっている。]

A5:ご近所だからこそできることですね。ちなみにDTMソフトは何を買ったんですか?

TARAWO:奇しくもロジックだったんです。

A5:美島さんに合わせたわけではなく?

TARAWO:図らずも、です。

A5:もしこれがプロツールスだったら、その後のストーリーは大きく異なっていたかもしれませんね……。

TARAWO:それで天下のロジック使いに直接ご教授いただくことになったんですね。

A5:それは羨ましい。

TARAWO:ロジックってデフォルトで起ち上げると、味も素っ気もない画面がペロンと一個出てくるだけなんです。そこで美島さんが”これでは使い勝手が悪くて何もやる気が起きない! まずは、これをこうしてこうすると使いやすくなるよ”と。

A5:まずはそこから。

TARAWO:そうなんです。私、現在はドラマーの仕事の他にも、作曲と編曲の仕事をしているのですが、そちらの仕事ができるようになったのは、美島さんにロジックの使い方を教わったからなんですね。

A5:では美島さんはTARAWOさんにとって恩師なわけですね……。ところで、その時レコーディングした曲はどうなったんですか?

TARAWO:色々あってバンドは事務所と契約が切れて、メジャーでCDをリリースすることはできなくなったんです。その後、インディーズで発売したんですが、セールス的にはうまくいかなく、バンドも解散しました。

A5:それは残念……。

TARAWO:そのこと自体は残念でしたけど、私個人にとっては美島さんとの出会いは非常に重要な出来事でしたね。

A5:その後も関係が続いていったわけですね。

TARAWO:ちょいちょい、二〜三年に一度くらい”タラスタの状況が見たい”ということで、来ていただいたり。

A5:仕事ではなく?

TARAWO:仕事ではないですね。バンド以降、美島さんとお仕事するのはmishmash*Julie Wataiが初めてです。

A5:仕事でもないのに10年以上交流が続くって、あんまりないことですよね。

TARAWO:美島さんって、あんな感じで、素っ気ないようでいて、そこには独特のアンテナの張り方があるというか……。

A5:なるほど。何か美島さんのアンテナにキャッチされるような周波数を発していたというわけですね。それで実際にmishmash*Julie Wataiの音を聴いてみて、どう思いましたか?

TARAWO:それまではコーネリアスで小山田圭吾さんの頭の中にあるイメージを具現化するのが美島さんの主な仕事だったと思うんですけど、小山田さんの指定なしの美島さんの頭の中ってこうなっていたのか、こんな音が流れていたのか、と最初に思いましたね。それはやっぱり一筋縄ではいかない感じですよね。

A5:具体的に言うとどういうところですか?

TARAWO:例えばメロディの譜割にしても、1拍めのアタマから入るところが無い。さぞかしアレンジャーやシンガーは困るだろうなあ、という。

A5:ドラマーとしてはどうですか?

TARAWO:ドラムも一筋縄ではいかないパターンが多かったですね。実はライブで美島さんの作成したオリジナル版と同じパターンを叩いている曲は「恋のタマシイ」と「グラドルを撃たないで」だけなんです。

A5:それ以外の曲は打ち込みの演奏を、生演奏で再現するのが難しいということでしょうか?

TARAWO:いえ、オリジナルを忠実に演奏することは可能ですよ。

A5:では、なぜオリジナル通りに演奏しないのでしょう?

TARAWO:最初はオリジナル通りにもやってみたんですが、やはり”それではライブ感が足りないね”ということになって……。

A5:ライブではもっと単純なリズムパターンほうがノリやすそうですもんね。

TARAWO:それで色々なパターンを試していって、より平易なパターンになっていきました。

A5:ライブ用のドラムアレンジの最終的な判断は、美島さんがするのですか? それともTARAWOさん?

TARAWO:美島さんと音声ファイルをやりとりしながら、二人で詰めていく感じですね。あとはリハーサルの後、一緒に千葉方面へ帰る車中で、”あそこはもっとこうしよう”とか反省会をしながら。

A5:より平易な、とは言いつつも、すごいオカズをドコドコドコドコッと入れたりするじゃないですか。

TARAWO:あれは大抵リハーサルに来るときにカーステレオで聴いてて”なんだコレ!?”って思ったものを”よーし、今日演ってみよう!”と取り入れてみる感じですね。

A5:あれはアドリブなんですね。

TARAWO:リハーサルでは失敗してもいいから面白いことをやってやろうという気持ちでやっています。それでうまくいったものは採用。

A5:まだライブでしか披露されていない曲の「起電力ロマンス」はドラムンベースのリズムを叩いていますよね。

[TARAWO氏がライブで使用しているサブスネア"TSS"(Tunable Sound Shape)。歯切れのいい高音がドラムンベースにマッチする。]

TARAWO:あの曲は逆に美島さんが私に合わせてドラムアレンジを考えてきたんじゃないかなあ、と思っています。私がドラムンベースを叩けることを、美島さんは知っていたので。

A5:ドラムンベースって、そもそも人間が叩くことを前提としてないじゃないですか。なかなか叩けるものではないですよね。

TARAWO:「起電力ロマンス」のようなドラムンベースを叩くのを可能にしているのは、モーラー奏法というテクニックです。

A5:モーラー奏法? それはどんな奏法なんですか?

TARAWO:モーラーさんという人が1920年代に体系化したんですが、鞭を振るうように、腕全体の運動でドラムを叩く奏法です。ジャズが華やかなりし時代によく使われていたテクニックなんですね。

A5:今はあまり使われていないんですか?

TARAWO:今、ロックなどのポピュラー・ミュージックのドラム奏法で主流になっているのはグラッドストーン奏法です。こちらは主に手首から先だけでストロークする叩き方です。

A5:なぜグラッドストーン奏法のほうが主流になったんでしょう?

TARAWO:習得するのが簡単だからでしょうね。

A5:なるほどー。誰にでも比較的簡単に演奏できることがロックの特徴のひとつですものね。

TARAWO:スピードだけ追及するならグラッドストーン奏法は優れているんです。でもそれだけでは、何十分も叩き続けるのは難しいですし、パワーやアクセント、音色の表現が弱いんですね。なので欧米ではモーラー奏法を取り入れるドラマーも、また増えてきていますね。

A5:どうしても今はテクノロジーや機材の進歩などに目が行ってしまいがちですけど、生ドラムの演奏テクニックというのも、そうやって時代とともに更新されていっているんですね。知らなかったです。TARAWOさんも、やはりドラマーとしての技術の研鑽は日々積んでいらっしゃるんですか?

TARAWO:四十歳をこえて、ここまでえげつない向上心を持っているドラマーってのも、そんなにいないんじゃないですかね。

A5:年齢とともに身体的に厳しくなってきませんか?

TARAWO:音楽的にも、テクニック的にも、未だに自分が向上できる余地はあると思っています。そういう可能性を信じて。やはり鍛えるのをやめると一気に落ちていくけど、向上しないまでも、維持することは可能だろうと私は思うので。

ここ数年の弛まぬ努力によりフットワークに更に磨きがかかり、BPM200まで踏めるようになったという。

A5:ドラマーは腰を痛めやすいときいたことがあります。

TARAWO:実際に腰を痛めたこともあるんです。そのときに始めたのが自転車です。身体のインナーマッスルを鍛えるには自転車が一番いいということで、一日三時間ほど自転車に乗るようにしたところ、本当に腰痛がなくなって。

A5:それでライブの時の衣装がサイクルウェアなんですね。

TARAWO:今では自転車は趣味ですけど、自分の人生で大切なものを三つあげるとしたら、家族、ドラム、自転車ですね。あとガンダム。

[ツールドちば2012には、9年ぶりに新調した新車(ベルギー製)で参加。何事も極めなければ気が済まない性格のようです。]

A5:ガンダム好きなんですね! 年代的にはファーストガンダム世代どまんなかですよね。

TARAWO:ええ。モビルスーツは連邦よりジオン派です。

(。。。インタビューは後編に続きます。後編は12月10日アップ予定です。)

TARAWO(タラヲ)
“常に変化しつづけること”をモットーに、より美しいドラミング、美しい音楽を追求し続けている、セッションドラマー。これまでにmihimaruGT、surface、市井紗耶香in Cubic Cross、福山雅治、Something Else、SEX MACHINEGUN、伴都美子(Do As Infinity)、Vlidge等のレコーディングやツアーに参加している。作曲/編曲家としての顔も持ち、平野綾など数多くの声優やアイドルに楽曲を提供している。2012年春より尚美ミュージックカレッジ専門学校非常勤講師(ドラム実技)。TARAWOのYouTubeチャンネル:
http://www.youtube.com/user/bicyclefty274