コトの経緯 mishmash*関係者インタビュー

第1回:PansonWorks

mishmash*の醸し出す正体不明感の源は、プロフィール画像が写真ではなく、イラストだということにもあるかもしれない。しかもこのイラスト、誰もがどこかで見たことがあるような気がしてるのではないか……。
それもそのはず、このイラストは、今や国民的漫画とまで言われている『ONE PIECE』のキャラをアレンジしたグッズデザインなどを数多く手掛けているPansonWorksによるものなのだ。
ハッキリ言って超売れっ子デザイナーである。今、彼に仕事を受注してもらうのは相当至難の業なはず。
そんなPansonWorksが、なぜいち新人インディーズアーティスト、mishmash*Julie Wataiのイラストを描くに至ったのか……。コトの経緯を訊ねてみると……。
(取材・文:菅原英吾)

PansonWorks(以下PW):マスヤマさんから”自分のtwitterのプロフィール画像用にキャラを描いてほしい”と頼まれたのがmishmash*Julie Wataiのプロジェクトに関わるきっかけです。

菅原英吾(以下A5):え、twitterですか!

PW:それからしばらくして、mishmash*Julie Wataiっていう音楽活動を始めたから、他のメンバーもキャラクター化してほしいと依頼を受けました。

[mishmash*の二人はライブ時以外は素顔を出さない。PansonWorksによるキャラは、まさに"バンドの顔"。]

 

A5:そもそもマスヤマさんとは、どのようなご関係で??

PW:私が前にデザイン会社に所属してた頃、とあるプレイステーション用ソフトのアイテムのデザインを担当したことがきっかけです。そのゲームのプロデューサーがマスヤマさんでした。

A5:プレイステーション用ソフトを作っていたということは90年代中ごろですね。そのときはキャラはデザインしなかったんですか。

PW:私が関わることになったのは途中からなので、すでにキャラクターやゲームの仕様はできていたんです。なので私は必要なアイテムをただひたすら描いていましたね。最後にはパッケージデザインまで私がやっていましたが……。

A5:アイテムデザインで腕を見込まれて抜擢されたんでしょうか? それで独立してやっていく自信がついた?

PW:その頃すでに独立を考えていたのですが、マスヤマさんが言ってくれた言葉が大きな後押しになったのは確かです。

A5:マスヤマさんは何と?

PW:”独立するなら仕事ふるよ”って。それで、こんな私でも仕事を頼んでくれる人がいるんだな、と。

A5:謙虚ですねー。

PW:マスヤマさんは、そんなこと言った覚えはないみたいですが……。そのとき独立を決断したのは、もし失敗するなら早い方がいいと思ったからです。失敗してもまだ若ければ、どこかの会社で働けるかもしれない。

A5:結果的には、その判断は正しかったですか?

PW:今は、このままデザイナーをやっていけるかな、と思っています。

A5:絵を描くことが元々好きだったんですか?

PW:常に教科書やプリントの余白に落書きをしてるような子供だったんですけど、それは勉強が好きでなかったからです。だから常に絵を描き続けてはいるんですが、特にそれが好きなことなんだとも意識したことはなかったんです。まさかそれを仕事にするようになるとは思っていませんでした。

[インタビュー中も常にメモパッドに手元に置いて、アイデアを描き留めている。最初にtwitterプロフィール画像を依頼されたときに描かれた"落書き"を発見!]

 

A5:ではデザイナーという仕事に辿り着くまでには、紆余曲折があったんですね?

PW:大学生のときはレコード会社か音楽雑誌に就職したいと思っていました。

A5:音楽好きだったんですね。当時はバブルが崩壊して、就職難の時代が始まった頃ですから、レコード会社に新卒で採用されるのも難しかったでしょうね。

PW:そうですね。それで結局、大学を卒業後、レコード屋の店員のアルバイトを始めました。

A5:一時期レコード屋の店員さんがカリスマ視されていた時代ってありましたね。憧れの職業のひとつでしたよ。

PW:好きな音楽に囲まれて楽しい仕事ではあったんですけど、ただ、そこに未来はないな、とも思っていて。

A5:その時すでに現在につながるCDというメディアの衰退を予見していたということですか?

PW:というよりも……音楽の趣味って年齢とともに変化していくじゃないですか。それなのにこのままここで社員になって、今と変わらないことをずっとやっていく自分の姿というのが想像できなかったんです。もしレコード屋をやっていくとしても、自分の店を持つとか、そういう方向に行きたかった。

A5:サラリーマン的な生活がイヤだったということでしょうか。わかります!

PW:で、やっぱり一度、雑誌の仕事がしてみたかったんです。それで今度は音楽ということに限定せずに編集の仕事を探しました。それでとある編集プロダクションに潜り込んで、ゲーム情報雑誌の編集を担当することになりました。

A5:当時は出版不況も始まっていて、編集経験の無い人が入りやすいのはIT系かゲーム系の雑誌という感じがありましたね。

PW:編集者と言っても出版社ではなく孫受けの編プロですから、なんでもやりました。原稿も書くし、写真も撮ってくるし、簡単なレイアウトまで……。

A5:そこでグラフィックデザインとの接点があったんですね。ちなみに当時は写植でしたか? DTPでしたか?

PW:DTPでした。

A5:それは早いですね。私も同じ頃、ゲーム雑誌の仕事をしていましたが、まだ写植からDTPへの過渡期でした。

PW:私が働いていた雑誌は、出版業界のなかでもDTPの導入は早かったんだと思います。マシンの動作はものすごく重かったですけど。イラレのファイルを1個開くだけで固まったりとか。

A5:その頃にDTPに身近に触れられたことは大きなアドバンテージですよね。

PW:そこで、もしかしたら自分は、素材をもらってデザインをする側になりたいのかなって、ようやく気づいたんです。編集者として二年ほど、ひたすらデザイナーに自分のまとめた素材を渡してデザインしてもらって、ということをやっていて、それにだんだん違和感を感じてきて。

A5:編集をやっていると、いちいちデザイナーに指示を出すより自分でできたら効率がいいな、と思うことはありますよね。

PW:それでとりあえず何のあてもなく「デザイナーになります」と言って編プロを辞めて……。

A5:なんと大胆な!

PW:そこから半年くらい無職の状態で、友達3人と部屋をシェアして借りて、そこに私のパソコンを一式持ち込んで、注文もないのに架空のイベントのフライヤーとかポスターとかをデザインしまくっていました。

A5:先行きに不安はなかったんですか?

PW:それよりも自分を追い込む環境が欲しかったんです。

A5:人間、切羽詰ってないと、なかなか本気を出さないということでしょうか。

PW:ある程度作品が出来上がったら、それを持ってデザイン事務所を回りました。どこかしら採用してくれるところはあるだろう、と。

A5:PansonWorksさん独特の雰囲気を持ったキャラクターの作風というのは、そのとき既に確立されていたんですか?

PW:キャラっぽいものは描いたりしてましたが、特にキャラクタービジネスを意識したものではなかったとでも言いますか……。当然作風は確立してませんでしたね。

A5:それは意外ですね!

PW:でもその後、独立してやっていく上で、ただグラフィックデザインができますよ、というだけではやっていくのは厳しいだろうな、と思ったんです。じゃあ自分の強みはなんだろうと考えたとき、絵が描けるというのは、ひとつの自分の強みになるのかな、と思うようになりました。

A5:小さい頃から描いていた落書きが、そこにつながっていくんですね。ところでレコード屋さんの店員をやっていたときにうまく思い描けなかった自分の未来像は、デザイナーになった今、どうなっていますか?

PW:今は、この先歳をとってもずっとデザイナーをやってるんだろうな、という気がしています。デザインの仕事が、これまでずっと続けてこられた唯一の事だし、これからもそうなんだろうな、と。それに、この職業を通じて、自分の好きな事が何でもできるということに気づいたんです。編集的なことも、プロダクト・デザインも、音楽に関わることもできます。

[PansonWorksは平面のグラフィック以外にも家具などのプロダクトデザインも行っている。]

A5:やはり音楽が好きという部分は根っこにあるんですね。音楽の演奏者になろうと思ったことはないんですか?

PW:実は学生の頃はずっと音楽をやっていました。

A5:そうなんですか。そのあたりのことをもうちょっと掘り下げて訊いてもいいですか。

PW:同世代なのでわかると思いますが、私たちが高校生の頃ってバンドブームでしたよね。

A5:はい。「イカす! バンド天国」が放送していた頃ですね。私もバンドをやっていました。というか、誰もがバンドをやっていたような時代だった気がします。

PW:私も友達とバンドをやることになって、キーボードを担当することになったんです。自宅がヤマハの音楽教室で、エレクトーンを習っていたこともあって、キーボードを弾けたので。

A5:どんなバンドをやっていたんですか? コピーバンドですか? それともオリジナル?

PW:TMネットワークのコピーとか。

A5:それもまた意外!

PW:まあ、やるのは何でもよかったんです。バンドの方針っていうのは、音楽的なことよりも、メンバーのなかで発言力が強い人が決めていったりするものじゃないですか。私は集団の中に入ると、あんまり発言しなくなるタイプで……。

A5:そうですよね。そういうときって頭の中では何を考えてるんですか?

PW:うーん、何でしょうねえ。

A5:ボーっとしているわけではないですよね。

PW:人の話はちゃんと聞いていますよ。

A5:よかった。

PW:それでバンドよりも、一人でできる打ち込みをやるようになりました。

A5:機材は何を使っていたんですか?

PW:YAMAHAのSY99だったと思います。

A5:シーケンサー内蔵の機種となると当時はかなり高かったんじゃないですか?

PW:ひと夏リゾート地で住み込みのアルバイトをして、稼いだお金を全額注ぎ込んで買いました。下北沢の中古楽器屋で30万ちょっとしました。

A5:バイト、しんどくなかったですか。

PW:それはそれで楽しくやっていましたけど、確かにきつかったですね。SY99を買うのに必要な額を稼ぐのに、最短で何日働けばいいか、きっちり計算して、休日も返上して働いたんです。

A5:そのあたりは計画的ですね。

PW:その後サンプラーやMTRを買い足していって、デモテープを作るようになって。でも音楽をやっていくのは無理だと、自分で何となくわかっていたので……。それでレコード会社にいくつかデモテープを送ったんです。

A5:えーっと、どういうことですか?

PW:踏ん切りをつけようと思ったんです。

A5:ああなるほど。これでダメだったらあきらめがつく、的なことですね……。PansonWorksさんの行動って、向こう見ずなようでいて、進むべき道を進まざるを得ないように、要所要所で自分の退路を意図的に断っていますよね。

PW:どうなんでしょうね。デザイナーになったのは、その都度やりたいことをやって来た結果ですね。流れに身を任せた結果は、今の”キャラの人”というポジションですw

A5:話は戻りますが、デザイン事務所から独立後、実際にマスヤマさんから仕事は来たんですか?

PW:そうですね。PansonWorksとして最初にマスヤマさんの仕事をしたのは『信用ゲーム展』という、お金をテーマにしたアートの展示会用に絵本をデザインしたときですね。私はそれまでマスヤマさんのことをゲームのプロデューサーなんだろうな、と思っていたんですが、どうもアートの仕事もしてるらしいと、そのとき初めて知りました。その後は『マネースマート』というお金の運用を学べるPCソフト用のキャラクターをデザインしたり。

A5:黒パンダですね。それってただの熊じゃないの? というツッコミもありますが……。

PW:黒パンダは後に「週刊少年マガジン」に連載された『M.I.Q』にも登場します。

A5:マスヤマさん原作の漫画ですね。

PW:それで、この人は漫画の仕事もするのか……と。

A5:正体は何者なのか、よくわからない人ですよね。

PW:そうしたら今度は音楽をやると……。

A5:作詞までしていますからね。ますます正体不明になっていってますね……。マスヤマさん以外の二人に会ったことは?

PW:なかったです。でもコーネリアスは聴いていましたし、「サウンド&レコーディング・マガジン」で美島さんのことも知っていました。

A5:会ったことがない人をキャラ化するのは難しくないですか?

PW:美島さんとJulieちゃんは写真を見ながら描きました。

A5:二人に会ったのは、4月14日の六本木新世界でのシークレットイベントが初めてだったんですね。mishmash*Julie Wataiのライブはいかがでしたか?

PW:最前列で観させてもらったんですが、Julieちゃんとの距離が近くて、なんだか照れくさくて、ずっと下を向いてました。

A5:シークレットライブバージョンのキャラは、発注されてないのに自主的に描いたそうですね。

PW:ええ。

[こちらが4月14日シークレットイベントヴァージョン。]

A5:あのときから、キャラ立ち考えてか、マスヤマさんはライブのときには赤い帽子を被るようになりました……。12月5日発売のアルバム『mishmash*Julie Watai』のジャケットには3人のキャラが沢山のヴァリエーションで描かれていますね。

PW:マスヤマさんが私のオリジナルキャラクターの『ロビンくんと100人のお友達』の絵を見て、こんな感じでヴァリエーションを増やしたい、と。当初はロゴと3人のキャラがぽつんと立っているだけのデザインもシンプルでいいかな、と思ったんですが……。mishmash*の音楽もそうなんですが、いい音楽って聴くたびに”あ、こんな音が入ってたんだ”という発見がありますよね。そんな感じで”眼鏡の色が違うな”とか”帽子を被ってるな”とか、何度見ても、どこかに新しい発見があるものにしようと思いました。

A5:眺めてるだけで楽しくなってきますよね。これからもグッズが発売されたりと、PansonWorksによるmishmash*Julie Wataiのキャラクターはどんどん増殖していくことになりそうですが……。

PW:でもマスヤマさんのことなので、数ヵ月後か数年後には、もう音楽以外のことをやってそうな気がしますね……。

A5:おっと。もちろん音楽以外のこともしてるでしょうが、mishmash*は、ずっと続けていくつもりだと思いますよ。少なくとも10/31にDOMMUNEに出演したときには”人生掛けてるとまで言っていい”と言ってましたから。

PW:そうですかw

A5:はい! ですので今後ともよろしくお願いします! 何卒!

 

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PansonWorks (パンソンワークス)
デザイナー、イラストレーター。
エディトリアル全般、CDジャケット、イラスト、ロゴ、映像制作など、グラフィックデザインを主体に幅広いデザイン活動を展開。企業やブランドのキャラクター、既存のキャラクターのアレンジも数多く手がける。オリジナルキャラクターに「ロビンくんと100人のお友達」、「ビューティフルアニマルズ」、「ゾンビシーズン」など。
www.pansonworks.com